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コラム

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AI FOR CARE
人間に寄り添うAI

フィジカルAIとは
著者/監修プロフィール

株式会社プレゼンス・メディカル 創業会長兼CEO今西和晃
/ Tomoaki Imanisih

医療、健康、教育、環境など、多岐にわたる分野での社会貢献を目指し、プレゼンス・メディカルを設立。日本の医療・介護分野において「技術の革新」をキーワードに、数々の新しいケアプロトコルを生み出し、業界に貢献している起業家である。M&Aやベンチャーキャピタルの分野で多数の事業を手掛け、その経験と知識を活かして、日本の介護業界にイノベーションをもたらすプレゼンス・メディカルを設立しました。
同社のCEOとしても活躍し、研修や喀痰吸引に関するコラムを通じて、事実に基づいた医療的ケアの意義や役割を啓蒙している。その知見は、今後の介護業界の発展に大きく貢献することが期待される。
2014年から500施設以上の施設経営者と直接対面を行い、現場における課題解決に向けた対談多数。公益社団法人 全国老人福祉施設協議会でのセミナーを全国28都道府県で実施。

2026.02.05

フィジカルAIとは

要約:

フィジカルAIとは、センサーやカメラで現実世界を認識し、ロボット等の物理的実体を通じて自律的に判断・行動する技術です。従来のデジタル空間完結型のAIや、人の指示を必要とする介護ロボットとは異なり、現場の状況変化に柔軟に対応できる点が最大の特徴です。深刻な人手不足と職員の身体的負担が課題となっている介護業界において、フィジカルAIは業務効率化とケアの質向上を両立させる切り札として注目されています。現在は国内外で実証実験が進んでいますが、導入にあたっては人間との心理的関係性やプライバシー保護、事故時の法的責任の所在といった課題の整理も同時に進められています。

運営する介護事業所では他社との差別化のため、経営判断として介護テクノロジーの導入を進めているけれど、新しい技術についても理解を深めたいと考えている人はいませんか?

この記事ではそんな人に知ってほしい、フィジカルAIについて詳しく解説します。

 

フィジカルAIとは?

フィジカルAIとは、AIがセンサーやカメラを通じて現実世界を認識し、ロボットや移動機器などの物理的な実体を用いて自律的に判断・行動する技術のことです。

フィジカルAIには以下のような特徴があります。

  • 現実世界を認識して動く
  • データを蓄積して精度が向上する
  • 人の身体的な負担を直接軽減できる

今までAIはデジタル空間に存在していましたが、フィジカルAIは同じ現実世界に存在し行動できるAIというのが大きな違いだと言えるでしょう。

フィジカルAIを知る上で、混同されやすい言葉を3つご紹介します。

フィジカルAIと介護ロボットの違い

画像出典:AXISON「介護の未来を設計する()

フィジカルAIと介護ロボットの一番大きな違いは、人間が指示をしなくても自ら判断し行動できるかどうかです。

フィジカルAIと介護ロボットでは、他にも上記画像のように制御方式・環境適応・タスク範囲・学習方法において大きな違いがあります。

介護の現場においては、利用者の状態や周囲の状況の変化に応じて柔軟に対応が求められます。

こうした現場特性から、都度指示を変えなければならない介護ロボットは、かえって介護職員の負荷を増やすケースもありました。

しかし、フィジカルAIは自分で周囲の状況を確認して判断でき、想定外のことが起こっても対応可能なことから、利用者のQOL向上と介護職員の働きやすさの改善を両方実現できる可能性が高いのです。

フィジカルAIと生成AIの違い

フィジカルAIと生成AIの一番大きな違いは、フィジカルAIはリアルタイムの情報を基に物理的な動作を行うのに対し、生成AIは学習した内容を基にコンテンツを生成することです。

フィジカルAIと生成AIには、他にも以下のような違いがあります。

項目

フィジカルAI

生成AI

タスクの性質

物理的な動作

デジタルコンテンツを生成

学習

センサーやカメラを通じてリアルタイムに情報を取得し学習

膨大な事前学習データを基に出力を生成

介護の現場においては、利用者に対して直接身体的な介護を行うタスクと、記録や報告といった事務作業を行うタスクの両方が混在しています。

そのため、フィジカルAIと生成AIの双方をうまく使い分けることで、より業務の効率化が図れるでしょう。

フィジカルAIエンボディドAI違い

フィジカルAIとエンボディドAIの大きな違いは、フィジカルAIはAIシステムそのものを指す言葉であるのに対し、エンボディドAIとは考え方を指す言葉であるということです。

フィジカルAIとはAIが現実世界を認識し、物理的な実体を用いて自律的に判断・行動する技術システムそのものを指します。

一方エンボディドAIとは、AIが身体を持つことで環境との相互作用からより深く世界を理解し、知能を発達させるという考え方を指します。

エンボディドAIの考え方がフィジカルAI技術の基盤となっているため、介護の現場においては今後どのようにフィジカルAIを導入・活用するかを考えていくことが大切です。

フィジカルAIが介護業界で注目される背景

フィジカルAIが介護業界で注目される背景には、どのようなことがあるのでしょうか。

3つご紹介します。

人手不足の解消につながる

直近のデータを見ても、介護業界では人手不足が深刻です。

厚生労働省が運営する職業情報提供サイト「Jobtag」では各職種別の有効求人倍率が公表されており、介護関連職種の有効求人倍率は以下の通りです。

職種

令和6年度(2024年度)における有効求人倍率

訪問介護員/ホームヘルパー

28.85

介護事務

1.85

施設介護員

3.09

介護支援専門員/ケアマネジャー

6.89

介護タクシー運転手

1.14

訪問介護のサービス提供責任者

42.38

施設管理者(介護施設)

7.42

老人福祉施設生活相談員

8.02

1倍を切る職種はなく、特に訪問介護サービスを支えるサービス提供責任者、訪問介護員の有効求人倍率の高さが際立っています。

このことから、フィジカルAIが介護業界の人手不足を補う手段の一つとして注目されていることがわかります。

参考:厚生労働省職業情報提供サイトJobtag「介護」


身体的負担を軽減できる

画像出典:公益財団法人介護労働安定センター「令和6年度介護労働実態調査結果」

2024年度(令和6年度)に公益財団法人介護労働安定センターが行った介護労働実態調査において、介護業界で働く人21,325人を対象に労働条件・仕事の負担についての悩み、不安、不満について調査した所、上記画像のような結果となりました。

「人手が足りない」「仕事内容のわりに賃金が低い」に続いて多かったのが「身体的負担が大きい」で24.6%を占めたのです。

およそ4人に1人が身体的負担を課題として感じていることになります。

自分の運営する介護事業所において介護職員の身体的負担を軽減できれば、競合他社との大きな差別化となり、採用活動にもプラスに働くでしょう。

そのため、フィジカルAIについて早くから情報収集し導入計画を進めておくことで、介護職員の離職率の改善や労働環境の改善につながる可能性が高まります。

状況に応じた判断や行動ができる

今までの介護ロボットは与えられたタスクに対し、機械的な動作を繰り返す仕組みでした。

しかし生成AIやロボット基盤モデルの進化により、フィジカルAIは単なる機械的な動作だけではなく、周囲の状況をセンサーやカメラで認識し、その情報を基に次の行動を選択できるようになったのです。

このことから、介護の現場でもフィジカルAIを柔軟に活用することができれば、さらに多様なタスクへの応用が期待されます。

参考:大和総研「フィジカルAIの進展で注目の人型ロボット」

フィジカルAIの現状とは?

フィジカルAIの開発や実験は、現状ではどこまで進んでいるのでしょうか。

海外、日本、医療・介護分野の3つの観点からご紹介します。

世界中で開発が進んでいる

フィジカルAIの開発や実験は世界中で行われているため、主な国における成果をご紹介します。

国名

フィジカルAIの開発・実験の内容

アメリカ合衆国

・二足歩行型ロボットの開発を行い、身体能力だけではなく人間とのコミュニケーションも重視されている

・ロボットの柔軟性と適応性の向上を目指している

ヨーロッパ(ノルウェー・スイス・イギリスなど)

・家庭内での活用を想定したロボットの開発が進められている

中国

・研究、教育、介護、製造などの分野に向けた多用途展開を目指している

・四足歩行型や外骨格型など、物理的身体性を備えたAI技術の実装が進んでいる

フィジカルAIの開発においては、「人間との協働」「実環境での実行」「用途ごとの特化」といった方向性に沿って世界中の各国で多様化が進んでいます。

各国の技術基盤と社会的ニーズに応じてさまざまな展開が見られるのが特徴的だと言えるでしょう。

参考:国立研究開発法人科学技術研究機構 CRDS研究開発戦略センター「フィジカルAIシステムの研究開発〜身体性を備えたAIとロボティクスの融合~」

フィジカルAI日本AI技術の遅れを打開する可能性がある

日本におけるフィジカルAIの開発・実験の現状は次の通りです。

・社会課題の解決に向けたAIロボットの開発が積極的に行われている

・実用化については積極的に支援を行っている一方で、基礎研究に対する支援はあまり行われていない

・ロボティクスにおける多様な競技会が行われている

・AIやロボットに対する社会的受容性に関する取り組みは、制度上の支援、研究と開発の乖離、倫理設計との接続不足など複数の課題がある

研究・開発・実験の現場では、制度や支援体制など複数の課題が指摘されています。

それでも、フィジカルAIは日本のAI技術における海外との差を埋める存在として期待されています。

日本のAI技術を世界と競える水準に引き上げるには、制度整備と人材育成の両面からの取り組みが欠かせません。

官民が連携し、継続的に支援していく姿勢が求められます。

参考:国立研究開発法人科学技術研究機構 CRDS研究開発戦略センター「フィジカルAIシステムの研究開発〜身体性を備えたAIとロボティクスの融合~」

参考:大和総研「フィジカルAIの進展で注目の人型ロボット」

医療・介護分野において実証実験が積極的に進められている

アメリカ合衆国のテキサス州で2017年に設立されたDiligent Robotics社では、病院において患者対応以外の次のような業務を行えるフィジカルAIMoxiを開発しました。

・患者用物品や医療消耗品の搬送

・検体(ラボサンプル)の運搬

・中央倉庫から必要物品を取りに行く業務

・個人防護具(PPE)の配布

・医薬品の配送

上記はいずれもルーティン作業ですが、ミスは許されません。

患者のケアを優先したい医療スタッフにとっては、負荷の大きい業務でもあります。

バージニア州のメアリー・ワシントン病院においては、医療スタッフが雑務を行うのに1日のうちの30%の時間を取られてしまうという課題がありました。

しかしMoxiを導入し、病院内での物品運搬やサンプル配送をMoxiが代わりに行うことで、スタッフの労働時間を合計約600時間節約することができました。

メアリー・ワシントン病院ではMoxiの導入により医療スタッフが本来のケアに集中できるようになり、身体的な負担も軽減することができたのです。

今後も医療・介護分野においてフィジカルAIは積極的に活用され、検証結果が積み重ねられていくでしょう。

参考:株式会社日本総合研究所「生成AIがもたらすロボット技術の進化 ―フィジカルAIの動向―」

参考:Diligent Robotics公式ホームページ「Moxi

参考:Diligent Robotics公式ホームページ「Moxi Case Study Mary Washington Healthcare」

フィジカルAIを介護業界で導入する上での課題

フィジカルAIを今後介護業界で導入する上での課題には、どのようなことがあるのでしょうか。

「人間との関係」「プライバシー」「法的責任や権利」の3つの観点からご紹介します。

人間との関係

フィジカルAIの中でもAIロボットはユーザーの反応やフィードバックを分析し、その行動を変化させていくという特徴があります。

そのため、人間はAIロボットを単なる機械ではなく、擬人化された存在として受け取ることがあります。

現在は、擬人化されたAIロボットが、人間の認知や感情、行動にどのような影響を与えるのかについて研究が進められています。

主な研究テーマは次の通りです。

・AIロボットの外見や振る舞い、対話性、自律性が人間にどのように受け取られるか

・AIロボットが持つ社会性の捉え方

・擬人化されたAIロボットと人間との認識のギャップ

・AIロボットとの交流によって人間の感情や行動がどのように変化するか

フィジカルAIが社会に広く普及した場合、人間の価値観、思想、意思決定にどのような影響を及ぼすのかはまだはっきりとわかっていません。

そのためポジティブ・ネガティブ両方の影響がある可能性があるのを前提に、人間との関係を慎重に研究しなければならないという課題があります。

プライバシー

フィジカルAIはAIがセンサーやカメラを通じて継続的に情報収集し、それを判断や行動に反映させるという特徴を持ちます。

特に介護、医療、家庭用サービスといった分野ではユーザーの身体情報や生活履歴などの個人情報が収集される可能性が高いと言えるでしょう。

そのため、フィジカルAIを使用する上では、ユーザーのプライバシー権や肖像権、個人情報に関するデータアクセス権への配慮が欠かせません。

あわせて、本人からの同意の取得や情報セキュリティへの対応など、法的・倫理的な配慮も求められます。

介護事業所を運営する上では、ユーザーが知らないうちに情報漏洩を起こしてしまわないよう、不正アクセスの防止やセキュリティの向上に努める必要があるでしょう。

また介護事業所と利用者本人との間でプライバシーに対する意識の齟齬があると、例えば介護事業所としては必要な情報収集を、利用者には監視だと受け止められてしまうといった可能性があります。

フィジカルAIには、このような安全上のリスクを避けながら利便性を向上させなければならないという課題があると言えるでしょう。

法的責任や権利

一般的な過失責任の考え方では、加害者が結果をどの程度予測できたかが、損害賠償責任を判断する基準になります。

しかしフィジカルAIが自律的に意思決定をする場合、開発者がすべての行動を予測できるとは限りません。

2026年現在、開発者がどの程度フィジカルAIの行動を予測すればよいかという明確な基準はないため、法律の適用を恐れて研究や開発の現場が委縮し、結果として現場への導入が困難になる可能性があります。

この課題を解決するためのAI補償基金やAI保険の検討も始まりつつありますが、根本的には研究や開発の現場を委縮させないルールの策定が求められるでしょう。

またフィジカルAIに法的人格や法的権利を持たせるかどうかといった課題もあります。

技術の進展と歩調を合わせた法制度の整備が、今後の社会実装の鍵になるでしょう。

参考:国立研究開発法人科学技術研究機構 CRDS研究開発戦略センター「フィジカルAIシステムの研究開発〜身体性を備えたAIとロボティクスの融合~」

フィジカルAIについてもっと詳しく知りたい方は株式会社プレゼンス・メディカルにご相談ください

フィジカルAIについて興味を持ち、さらに詳しく学びたい方は株式会社プレゼンス・メディカルにご相談ください。

株式会社プレゼンス・メディカルでは、フィジカルAIを「介護の未来を設計する基幹技術」と捉えています。

2040年の日本で不足する介護職員の数は、各種推計では約69万人と予想されており、フィジカルAIはこのような危機に瀕している日本の介護保険制度を救う技術だと考えているためです。

私たちはまずこの技術について深く学び、理解することから始めました。

その上で、介護事業所を運営される皆様に広くこの技術について興味・関心を持っていただくことが重要だと考えています。

新しい技術にはリスクがつきものだとお考えの方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、そのリスクを最大限回避する努力をしながらフィジカルAIを導入することが、介護業界の明るい未来を創ることだと私たちは考えます。

介護事業所を運営する皆様がフィジカルAIについて学びを深めていただくのを、株式会社プレゼンス・メディカルは積極的にサポートいたします。

興味のある方は、次のページよりお問い合わせください。

お問い合わせ | 喀痰吸引等研修の講習・資格・介護・福祉の研修実績|株式会社プレゼンス・メディカル

まとめ

介護業界は今、空前の人手不足と職員の負担増という構造的な課題に直面しています。その打開策として期待されるのがフィジカルAIです。本技術は、単なる定型作業の代替に留まらず、状況に応じた自律的な判断が可能なため、職員の「身体的負担」を直接的に軽減し、より専門性の高い対人ケアに集中できる環境を創出します。

海外ではすでに病院内での物品搬送などで実働成果を上げ始めており、日本においてもAI技術の遅れを取り戻す重要な鍵と目されています。一方で、擬人化による心理的影響やデータ活用における倫理的側面、法整備など、社会実装に向けて解決すべき論点は少なくありません。

しかし、2040年に向けて介護人材の不足が加速する中、リスクを恐れて停滞するのではなく、適切な管理のもとで最新技術を柔軟に取り入れる姿勢が、事業所の存続と介護の未来を左右します。フィジカルAIへの理解を深めることは、利用者と職員双方の幸福を守るための第一歩となるでしょう。

 


本記事は発表当時のデータに基づき、一般的な意見を提供しております。経営上の具体的な決断は、各々の状況に合わせて深く思案することが求められます。したがって、専門家と話し合いながら適切な決定を下すことを強く推奨します。この記事を基に行った判断により、直接的または間接的な損害が発生した場合でも、我々はその責任を負いかねます。